GEKKAN-WIEN ウィーン日誌

   平成元年創刊 現地オリジナル取材と編集でウィーンを伝える           現地情報紙「月刊ウィーン GEKKAN-WIEN 」の編集長が綴る

パンダレンタル契約の背景

 世界最古の動物園といわれるシェーンブルン動物園で、昨年夏にパンダ夫婦の三番目の子供♂が生まれた。名前はフー・バオといい、意味は「ラッキーなレオパード」、漢字で書けば「福豹」である。今が可愛い盛りだが、来年は中国に返還しなければならない。
 レンタル契約に従って、2007年8月23日生まれで最初の子供フー・ロン♂「福竜」は2009年11月18日に、奇しくも同じ誕生日の2010年8月23日生まれの2番目の子供フー・フ♂「福虎」は2012年11月7日に、それぞれ中国に渡った。2013年8月14日生まれのフー・バオ「福豹」はおそらく2015年11月に中国に返されることだろう。なぜ生後2年なのかというと、パンダは2歳で親離れするからだそうだ。
 現在ヨーロッパでパンダを見ることができるのはウィーン(オーストリア)のほかに、マドリード(スペイン)、エジンバラ(英国)、ボーヴァル(フランス)で、それぞれ1組のつがい、更にウィーンとマドリードには2013年生まれの子パンダがおり、全て中国籍で合計10頭のレンタルパンダがいる。外国で中国籍のパンダから産まれた子パンダは、人間の場合と違って、親の国籍になるのだ。

 気になるレンタル料だが、ペアで原則的に1年1億円といわれている。例えばエジンバラには2008年生まれのパンダの雄と雌が2011年12月4日からお目見えしている。エジンバラの動物園が2011年12月に締結した契約では、8歳のパンダのつがい1組の10年間のレンタル料は600万ポンド(約10億円)といわれている。まさに《ジャイアントパンダビジネス》である。ウィーンの場合は2003年からパンダのペアを飼育しており、その際に結ばれた10年契約では、レンタル料はエジンバラよりもずっと少ないという(シェーンブルン動物園は契約上、料金を公開できないので詳細は不明)。レンタル料だけでなく餌代も馬鹿にならない。ウィーンの場合はパンダの餌となる竹(笹)の葉は南フランスから輸入していて、動物園全体の餌代の半分くらいの予算がパンダの餌代にまわっているそうだ。

 ウィーンのシェーンブルン動物園のレンタルパンダも10年契約で2003年3月15日に契約が締結された。契約が切れれば半年後の2013年9月15日までにパンダを中国に帰さなければならない。ウィーン側はもちろん契約の継続を望んでおり、中国にその旨伝えていたが、中国側はイエスかノーか、なかなか返事をよこさなかった。なんと、契約が切れて8ヵ月後、11月になって中国側は契約更新にイエスと答え、レンタルパンダの第2次10年契約が3月にさかのぼって署名された。契約書によれば2013年8月15日生まれた子パンダは2年間ウィーンにいることが許されるということだ。子パンダのレンタル料金についても公開されていない。
 契約が切れたまま、これで契約打ち切りかそれとも更新か、はっきりせず、宙ぶらりんな契約状態でパンダの子供まで生まれて、ウィーンの動物園関係者はやきもきした不安の日々を送っていたことだろう。なぜ中国がそこまで待たせたか、理由はひとつである。

 2013年9月5日、中国外務省の副報道局長は北京での定例記者会見で、オーストリアが一つの中国政策を堅持し中国の領土保全を損なういかなる分裂行為も支持しないと表明したことを、高く評価すると述べた。
 2012年5月にダライ・ラマがオーストリアを訪問した時、オーストリアのファイマン首相(社民党)やシュピンデルエッガー副首相兼外務大臣(国民党)と会見した。オーストリア政府要人がダライ・ラマと会わないよう事前にオーストリア側に申し入れていた中国は、これに対し強い不満を表わし、中国外務省と在オーストリア中国大使館は北京とウィーンでオーストリア側に抗議したといういきさつがある。
 2013年、在オーストリア中国大使がオーストリア外務省のヤン・キッケルト政治局長と会談して、上述の表明を引き出したのである。具体的には、「チベットは中国の一部であり、チベット独立運動を支持しない」「ダライ・ラマと会談したことによりオーストリアは中国との関係を悪化させて残念だ」とオーストリアに反省させたことをアピールしたかったのだ。オーストリア外務省は本件を公表しなかったので、国内ニュースにもなっていない。
 
 レンタルパンダは巨額の取引と国際外交に利用されている。中国からパンダを借りると、どういうことになるか、以上オーストリアの例で示した。

 さて、オーストリアからチベット発言を導き出したこの在オーストリア中国大使は、今年正月早々、オーストリアの日刊紙ヴィーナー・ツァイトゥングに1月6日付きの寄稿で、安倍首相の靖国神社参拝に異議を唱えた。これに対し、竹歳誠在オーストリア日本大使は1月9日付の寄稿で反論した。
 ヴィーナー・ツァイトゥングは1703年創刊で、現在はオーストリア共和国の発行する火曜から土曜日までの日刊紙。いわゆるお堅い新聞であり、政府の広報的性格が強く、他紙に比べ一般読者は多くないと思われる。
 世界中で、在外中国大使が同様の反日活動を同じ時期に行っており、ウィーンもその一例に過ぎない。中国大使はおそらくオーストリアの各メディアに呼びかけたものと思われるが、中国大使の投書を採り上げたのは国が発行する新聞社だけだった。

(月刊「ハンガリージャーナル」2014年2月号「ウィーン便り」より若干修正して引用)

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